2009年10月22日木曜日

さようなら南田洋子さん

女優の南田洋子さんが昨日、永眠された。享年76歳の若さだった。ここ数年、認知症にかかり、ご主人の献身的な介護が注目され、その壮絶な日々を公開し、多くの人々に無常感を抱かせた。

誰もが迎える老い。きっとこのニュースを聞いた人々は、その年齢により、それぞれ違う感想を抱いたことだろう。中には私のように、すでに老いを迎え、同じ年代の長門ご夫妻の生き様を他人事とは思えぬ胸の痛みとともに聞いた人も多いだろう。

理知的で、美しく、偉大な女優としても活躍された南田洋子さん。ほぼ50年近い夫婦の軌跡を考えれば、マスコミで取りざたされている綺麗な面のみではなく、波瀾万丈、ドロドロの歩みもあったことだろう。

長門さんの浮気や多大な借金、実父の下の世話までさせた後ろめたさ。時には憎しみあいながらも、老いを共に歩んだ複雑な心境の時もあっただろう。

私ぐらいの年代の人なら、南田さんのスケールの大きさ、長門さんの男としてのわがままさ。などなど、色々な感想があるだろう。少なくとも単純なメロドラマ的な捉え方はできないと思う。

長門さんは正直すぎるところがあり、自身の至らなさを曝け出して、「おしどり夫婦」などとでっち上げられたイメージに抵抗していた時もあった。他人の目からみた、安易な定義付けに我慢がならなかった日々もあったのだろう。50年にも及ぼうという結婚生活がそんなに簡単で単純な日々ではなかったことは容易に想像できる。

しかし、南田さんが認知症を発症し、誰も頼る人がなく、仕事もできず、100%長門さんに依存しなければ生きられない状態に陥ったこの介護生活の4年間が、男としての長門さんに最も多くの生き甲斐と充実した晩年と愛に溢れる豊な心を取り戻させてくれたという供述には深く感動し、男性というものの本質を改めて教えられたような気がした。

自分のみを待ち続けてほしいという子供のような独占欲。すべて頼られ、自分だけを見つめてくれる女性の愛おしさ。自分がいなければ何もできない女性への男という性を奮い立たせるような覚悟と献身。

長門さんは今後、介護の日々を過ごした4年間の南田さんとの充実した日々を糧に、役者としても大きく飛躍されることだろう。ご自身の健康に留意され、役者としての新たな人生を踏み出してほしいものだ。

長門さんの「洋子はいつも自分の心の中で生きつづけている」という発言。確かに本当に大切な人の死は絶対に認めたくないもの。いつまでも心の絆でご一緒に生き続けてください。南田洋子さん。安らかに。